スーパー銭湯、寂れた温泉宿、個人経営の喫茶店などなど、何気なく入ったところに中途半端に数巻だけ並んでいて、手に取って読んでみると妙に印象に残っている作品というものは無いだろうか。僕にとってはこの『ゼロイン』がまさにそういう作品で、Kindleコミックストアでセールになっていてレコメンドされた瞬間までほとんど忘れかけていた。というかタイトルすらほぼ忘れていた。懐かしさで思わず全巻ポチって読み進めていた。
あらすじはWikipediaに項目があったのを引用したい。
20XX年の東京を舞台とした刑事系ガンアクション漫画。それと同時に、主人公が高校生である事から学園ラブコメの要素も有している。
この作品においては銃器などによる凶悪犯罪が増加する一方、警察庁の人員には限りがある為に事件に対応しきれない状況となっており、そういった状況に対処するために 警察の民営化 が行われている。本作はこういった経緯によって誕生した「民間特殊機動警官隊」(通称・民警)の活動を描いた作品であると同時に、主人公の光やみくるの成長を描いている。
「20xx年の東京」などと言われるとSFっぽく聞こえてしまうが、実際は民警の連絡手段に使われる通信手段は「ガラケー」そのもので、近未来ではなく「僕らの通ってきたゼロ年代前半から分岐して警察の一部が民営化した世界線」と考えるといいだろう。連載機関が2003年から7年半近くやってたようなので、ガラケーがどんどんiPhoneに駆逐されて行くのと並行して連載してたんだな……。この辺『攻殻機動隊』シリーズは、ちゃんと近未来ガジェットであれこれやってて廃れにくい設定としてあるので本当に凄い作品なんだなと思わされる。ちなみに用語「ゼロイン」は、本作の中においては、ゼロ距離で使われる格闘術(ゼロ距離コンバット)のことで、女の子が犯罪者をぶん殴って相手を無力化する描写が非常に多い。
本作の魅力は、ハードなアクションとそれに説得力を持たせる絵やコマ割りの描写力、そして何といってもむちむちした女の子による外連味ある戦闘だろう。表紙は12巻ともヒロイン爲妹みくる(なずめ・みくる)で統一されており、いずれも太ももが凄いことになっている。巻いてあるチョーカーがえっちだが、作中では重要な意味を持っているからセーフ。みくるは主人公の白石光(しらいし・こう)以外とも民警組織でバディを組むことがあって、スレンダーな女性とのコンビが多いのだが、いずれも性格が狂犬で、みくる自身も時々プッツンして狂犬になるので、令和の今に読むと『リコリス・リコイル』のたきな特化チームみたいな面白さがある。みくるの通う同級生JKはスレンダーな子はおらず、全員むちむちである。おかしいでしょ。『ライザのアトリエ』より10年以上も前の作品だぞ? ライザ遊んだことなし。
コロコロ変わるみくるの表情と、髪型や服装もエピソードごとに変わるこだわりに、ヒロインを魅力的に描こうとする強い意図を感じる。口癖の「はちゃ」や表情が絶妙に古くて新しいというか、90年代とゼロ年代アニメ絵の悪魔合体ぶりが見事だと思う。あとガンアクション漫画は例外なく画力が高い印象があるが、本作もとにかく銃器の描きこみ具合やスピード感がめちゃくちゃかっこいい。作者のいのうえ空氏は薬莢フェチなのか、打ち終わった薬莢がアップで登場するコマが非常に多い。
女の子がド派手に銃をぶっ放す作品の類例に漏れず、シリアスな設定やシナリオ進行がありつつも、かなり肩の力が抜けたコミカル描写も多く、ちゃんとカップリング成立して終わるラブコメ的な終わらせ方もしていて楽しく読める。最終巻はページ数も多めで、今まで登場したキャラクターも総出演の劇場版的な盛り上がりでとても読み応えがあった。最後の方では、民警の後継となる組織に、白石とみくるの後輩隊員も入ってきており、ここから続編も展開できそうな流れだったが、調べた限りでは残念ながら続編は存在していないようだ。
長期連載だったこともあり絵柄も少しずつ変遷しているけど、個人的には4~9巻くらいまでが可愛いらしさ・かっこよさ・むちむち加減がバランスよくて好き。KADOKAWAがヤケクソセールで1冊191円(全巻2,300円ほど)で揃えられたのだけど、この面白さなら定価で買ってても十分に満足できたと思う。絵柄に惹かれた人はウォッチリストにでも入れておいてください。KADOKAWAはたまにこういうヤケクソセールやる。
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