2113年の世界。小型飛行機で見知らぬ土地に不時着したミチルと、同行していたロイディは、森の中で孤絶した城砦都市に辿り着く。それは女王デボウ・スホに統治された、楽園のような小世界だった。しかし、祝祭の夜に起きた殺人事件をきっかけに、完璧なはずの都市に隠された秘密とミチルの過去は呼応しあい、やがて―。神の意志と人間の尊厳の相克を描く、森ミステリィの新境地。
2013年に造られて百年間、隔離されていた都市を舞台とするSFミステリー作品。人々の頭からは死の概念が欠如し、誰もが性善説を疑っていないように見える桃源郷の如きコンパクトシティが描かれており、哲学的な会話が多く、森作品らしさが楽しめる作品だ。
たぶんハードSFを多くよむような人から見ると突っ込みどころは多いのだろうけど、本作はあくまでも「2010年前後に造られて当時の文化水準のまま残っている都市を、2113年の人間が訪れている」形式で書かれており、この設定が、ところどころの説明不足を巧くぼかしているように感じた。
殺人事件の密室は、論理的には「これ」というものではあるけれど、密室が密室として成立し得た社会を読者が想像できるかに委ねられているとも言える。
主人公と、同伴するウォーカロン(作中におけるアンドロイドのようなモノの総称)のロイディとの掛け合いも面白く、ロイディの存在そのものが最後までちょっとした伏線になっているところも感心してしまった。
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