文明開化の音がする明治十年。一等巡査の矢作剣之進らは、ある島の珍奇な伝説の真偽を確かめるべく、東京のはずれに庵を結ぶ隠居老人を訪ねることにした。一白翁と名のるこの老人、若い頃怪異譚を求めて諸国を巡ったほどの不思議話好き。奇妙な体験談を随分と沢山持っていた。翁は静かに、そしてゆっくりと、今は亡き者どもの話を語り始める。第130回直木賞受賞の妖怪時代小説の金字塔。
怪異を仕掛けて人助けを行う一味の物語、巷説百物語シリーズの一冊。江戸時代を舞台に描かれていた前作『続巷説百物語』から一気に40年近く経過し、明治維新以後まで時代が飛んでいる。戯作者を隠居して旅へも行かなくなり、すっかり好々爺となった山岡百介が、かつて一緒に旅をした小股潜りの又市らの活躍を回顧する形式となっている。
収録された短編の大半が
といった流れで進んで行き、ある意味では安楽椅子探偵ものっぽくもある。それぞれの話も長過ぎず短過ぎず、とてもテンポ良く読めた。過去のシリーズを読んでいなくても楽しめるよう配慮もされている。
隔離された集団の特異さをホラーのように壮絶な描写で描く『赤えいの魚』から始まり、後半の『山男』『五位の光』『風の神』では、百介と別れた又市たちのその後が少しずつ詳らかにされて行く。
とても面白かったので夢中になって読んだのだけど、山岡百介という1人の人間の旅の終わりを見たような、哀しいような嬉しいような、何とも云えぬ読後感を残す物語で、『巷説百物語』『続巷説百物語』を再読したくなった。
京極夏彦の作品は、京極堂たちが登場する百鬼夜行シリーズ*1は、キャラクターが多くなり過ぎて話も冗長に感じれられることが多くなってきたのだけど、巷説百物語シリーズの方が無駄がなく削ぎ落とされていて読む方も負担なく楽しめるなぁと思った。
*1 これ妖怪シリーズじゃなかったんだとウィキペディア先生に教えてもらって初めて知りました。
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