ariyasacca

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2022-01-06 (木) [長年日記]

[ゲーム]『世界を変えたテレビゲーム戦争』視聴した

少し前からAmazonプライムビデオでヒストリーチャンネル制作のドキュメンタリー番組『世界を変えたテレビゲーム戦争』がレコメンドされて、無料配信期間中にいつか見ようとウォッチリストに入れていた。

この番組はアメリカ合衆国におけるゲーム産業の黎明期(概ねアタリの誕生からソニーがプレイステーションで参入し覇権を築くまで)の企業経営者や従業員からインタビューする形式で構成されている。

僕はアメリカのゲーム業界については、10代の頃はファミ通購読少年でもあったため、鈴木みそのレポート漫画などで、以下のようなざっくりした知識は持っていたが、詳しいことまでは知らなかった。

  • 日本より先に家庭用ゲーム機のブームが起きたが「アタリショック」なる現象で完全に終わったこと。
  • セガのジェネシス(日本名:メガドライブ)がめちゃくちゃ売れていたこと。
  • キャラクター「ソニック」の知名度が「マリオ」並みに高くて人気があること。

『世界を変えたテレビゲーム戦争』は、上記のような、解像度の低いざっくりした理解を補強してくれる内容で、かなり楽しめる番組だった。字幕は口語的な面白さを重視した抄訳といった印象だが、アタリ創業者ノーラン・ブッシュネルやセガオブアメリカのCEOトム・カリンスキーといった人物の英語はかなり聞き取りやすいので、がんばれば本質的な彼らの伝えたい内容を理解できるかも。

以下は印象に残ったところの覚え書き。

  • アタリ初期の出世作「PONG」のアイデアを巡り、元ネタとなった発明家ラルフ・ベアの遺族と、よりポピュラーに実装して普及させたノーラン・ブッシュネルどちらの立場からもインタビューを取っている。
    • 様々な見方はあるだろうが「操作はシンプルに、攻略は難しくする」ことでPONGは広く受け入れられた、とするノーラン・ブッシュネルの見解はなるほどと思わされる。
    • ノーラン・ブッシュネルは経営者として凄く魅力的な人物で、「アイデアなんてささいなものだ。シャワーを浴びたら誰でも思い付く。大事なのは実行する人間だ」などの名言連発でかなり惹かれる。
  • アタリ社が、自由で制限もなく、当時のヒッピー文化を色濃く反映したシリコンバレーの象徴的企業だった時代の映像が面白かった。社員同士が逢引きに消えて行ったりドラッグでハイになりまくってる毎日っていうのは、さすがに尖り過ぎだが。組織として上下関係が少なくフラットで、共同風呂文化があったのが面白かった。
    • ワーナー社に買収され、スーツのCEOが乗り込んできて徐々に「ちゃんとした」会社にされてしまうくだり、世の中のIT企業でどれくらいこういう出来事が起きてるんだろうと考えさせられてしまう。
    • でもワーナーみたいな「ちゃんとした」会社の営業部門やマーケティング部門の人的リソースを活用できたお陰でゲームビジネスが広がった側面も大きいのだろうなぁ。
  • スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックがアタリに雇われてゲーム1本完成させるくだり、何かの伝記で読んだ記憶があったが、これの顛末もちゃんとインタビューが取られていた。
    • 実装面のほとんどを担当したウォズはジョブズに「ボーナス出たから半分やるよ」と言われたが、実はそのボーナス総額がジョブズの話とは10倍くらい違っていて、結局ほとんどをジョブズに持っていかれたと笑って話す。ウォズどんだけ人が良いんだよ……。
  • アタリのゲームソフト売上はどんどん伸びているのに、実装を担当したソフトウェアエンジニア達の待遇には反映されず、不満を持った社員たちが独立して立ち上げたアクティビジョン社によってサードパーティー製ゲームソフトの門戸が開き、これがクソゲー粗製濫造に繋がり、やがては「アタリショック」が引き起こされる。
    • 典型的なエンジニアリング部門軽視の事例ではあるが、アタリ経営陣としてもいわゆる「家族主義的経営」で平等に組織運営したかった様子も語られており、なかなか難しい問題ではある。
    • E.T.のゲームが凄まじいブラック納期な開発期間で超絶クソゲーとして発売され、ゲームの墓場に埋葬されるくだりが強烈過ぎる。返品文化のある国でのクソゲーは企業の存続に関わるレベルって思うと恐ろしいね。日本ではクソゲーだろうと売ったもん勝ちなところがあるので、文化の違いを感じた。
  • アタリショックでとてつもなく縮小したアメリカのゲーム市場をNES(日本名:ファミリーコンピュータ)が華麗に復活させる。
    • クソゲー乱発でゲーム機に凝りていた消費者に対しては、ロボット周辺機器と抱き合わせることで「ゲーム機じゃなくて家電なんですよ」というマーケティングで売ってたらしい。周辺機器は割としょうもない完成度だったとのことで、任天堂も黎明期はこんなあこぎな商売やってたのね。
    • マリオを生んだ宮本茂は「芸術家」で「天才」の若者と評されて登場している。アメリカから見た宮本茂ってこういう印象か~。
    • ニンテンドーオブアメリカの取った「うちが認めたゲームソフトじゃなきゃ販売させてやらない」方式も、アタリの大ゴケを見た後だと、一定程度の共感を持って聞ける話だなぁ。
  • NESでアメリカ市場を制した任天堂に、ホビー業界の伝説的経営者トム・カリンスキーを三顧の礼で迎えたセガが、ジェネシスで戦いを挑む。しびれるぜ。
    • 日本でもセガサターンとプレイステーションの時代に、互いに皮肉を言い合うCMの応酬でマーケティング合戦の様相を呈していたが、アメリカでも一足先にジェネシスとSNES(日本名:スーパーファミコン)でやっていたのね。
    • モータルコンバット(残虐フィニッシュ描写が売りだった実写版スト2的格闘ゲーム)の血を緑色にさせた任天堂と、赤色のまま販売を認めたセガ。これがアメリカ議会で問題視され、公聴会を経てゲーム業界によるレーティング規制へと繋がって行く。各社の議会での証言戦術も見どころになっている。議員の先生がよくわかってない文化に首を突っ込んでくる光景、どこの国も変わらんものだな。
    • 冴えない配管工のおじさんであるマリオに対し、クールな音速ハリネズミのソニックとマーケティング戦略で対抗して行くセガ。任天堂がスーツの会社でセガが自由な会社みたいに捉えられている点も「へぇ~」って思った。たしかに任天堂の人は名物コーナー「社長が訊く」にも作業着で登場する人が多い気はする。仕事着をきっちり着用するのは昔からの伝統なのか。
  • SNES対ジェネシスの時代を振り返ったところで、ソニーによる初代プレイステーションの投入で番組は終わる。
    • この時代ともなるとインタビューは少なめで、最初の$299って発表した価格は割とヤケクソだったとかの暴露話が聞ける程度。
    • プレイステーションの価格を聞いた当時のセガオブアメリカ社内はパニック、日本の本社からの指示が増えて裁量が無くなったのを嫌気したトム・カリンスキーもCEOを離れ、あとは僕らの知ってるセガ凋落の歴史へ……。悲しいなぁ。

アタリショックからNESの普及、そしてSNES対ジェネシスくらいまでがメインとなっていて、プレイステーション以降のハードに思い入れのある人には内容が物足りないかも知れないですが、僕は非常に楽しめた番組でした。2020年代もIT業界の世界をリードするであろうアメリカの強さや、歴史の繰り返しにも思いを馳せられる、学びのある構成と言えます。IT業界で働く人にもおすすめしたいです。


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