企業がOSS(オープンソースソフトウェア)を扱う上での「恐れ過ぎない」「軽んじ過ぎない」ための、適切な利用方法について解説された本。
タイトルが「教科書」であり、副題も「ソフトウェア開発の現場で求められる適切な利用方法」とあるため、堅そうな第一印象を受けるが、中身としては、もちろん手堅いライセンス毎の解説もありつつ、それらのライセンスが生まれた背景やコミュニティの思い、後半では「一方的に利用するだけでなく、コミュニティに貢献しよう」という著者の熱い主張が展開される。
書いた人の立ち位置が、あくまでソフトウェアエンジニアでありながら、技術系の部長やCTOといったマネジメント層といった立場の人への助言も含まれており、「こういう時は法務の専門家に相談し、一緒に解を出しましょう」と次のアクションへのポインタも示されているため、色んなロールの人におすすめできる解説書である。
とくに2017年から2018年は、FacebookがBSDライセンスに追加で特許条項を入れた事が話題にもなって、何故BSDライセンスではそういう事が可能だったのか、他のライセンス条文では最初から特許条項が付いていたり、元ある制限事項以上の制限を課してはいけないと決めれられていて追加はできないなど、本書を読むと理解が進む。事例解説としてFacebookの話が載っている訳ではないので、増補改訂の機会があったら、是非入れて欲しい気はする。
言葉や訳語の選び方にもこだわりが感じられて、MITやBSDに代表されるライセンスは「寛容型」、GPL系のライセンスは「互恵型」と表現されていたり、License compatibilityを「ライセンスの互換性」でなく「ライセンスの両立性」としているなど、細かいニュアンスまで日本語で伝わるよう配慮されていて助かる。
僕がとくに良いなと思ったのは、「嫌われた日本人」という、ちょっと僕らのドキッとする見出しの付いた章で紹介されていたLinuxコミュニティリーダーの言葉で、
「Don't hoard your patch.」
hoardとは「溜め込む」といった意味です。あなたが何かOSSに対する改善やバグ修正をしたらそれをあなた自身の手元に溜め込まないでほしい、と。それをコミュニティ共有財産にする価値を認識してほしいと、アンドリューは強調しました。
の下りで、その後も「気軽にパッチを送れば寛容に受け入れてくれるよ!」みたいに後押しする主張が並ぶ。
僕も何度かソフトウェア作者の立場で他人からパッチを送られてみて分かったことはあって、自分の作った何かに対して関心を持つだけでなくPull Requestまで送ってくれると、ハッキリ言ってめちゃくちゃ嬉しくなって、何とかマージできるよう一緒にコードを整えようと協力する気持ちになる。だから余り自重せず気軽にパッチ送っても、大抵の場合は歓迎されるものだと思っている。
IT業界で働いていると、ツールやライブラリを良く知ってて使いこなしてるのが偉いみたいな価値観の人と一緒に仕事する機会があって、もちろんOSSを使って大きな成果を出すために必要な能力ではあるけれど、それだけではないよねと個人的には引っかかっていた。この本では「利用するだけのフリーライダーはやめて、ちゃんとコミュニティに貢献して行こう」ってバッサリ斬ってあるところに共感したし、自分も頑張ろうと思わされた。
勉強にもなるし、読み終えた後で何か行動を起こそうと思わせてくれる、良書です。おすすめ。
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