時間線を遡行して人類の完全なる殲滅を狙う謎の存在。絶望的な撤退戦の末、男は最終防衛ラインたる3世紀の倭国に辿りつくが……
SFに時間遡行モノ、と分類されるサブジャンルがあるのかどうか知らないが、一言で表すと時間遡行モノの話である。ただし遡る時間のスケールがとてつもなく大きく、最終的には2,000年以上を巻き戻ることになる。
主人公が人間によって造られた、極めて人間に近い外見を持つ知的生命体で、彼らの存在する時間軸の世界線では、いずれ地球外生命体によって人類が滅ぼされてしまう「未来が確定している」ため、とにかく時間を遡ってETと呼ばれる地球外生命体が誕生する因果を断ち切ってしまえば勝ち、ただしETも時間を遡る技術に辿り着いていて、主人公達は様々な時代で人類に介入するが、あと一歩のところでの敗走に敗走を重ね、とうとう邪馬台国の時代まで行ってしまう……という壮大なんだけど小説のボリュームとしてはそんなに長くない話である。
時間を遡りながら優勢と劣勢のシーソーゲームになっているため、時間軸の分岐が次々と起こって味方が減ったり増えたりと、SFらしい見所もあるが、どちらかというとハードSF的な重厚設定を楽しむよりは、知的生命体である主人公に芽生えた人間以上に人間らしい感情や、邪馬台国の女王である卑弥呼との触れ合いといった情緒的な部分を楽しむ物語だと言える。邪馬台国で「王」と崇められ、王として振る舞う主人公の描写や、人々の時代がかった台詞などなど、時代考証にも面白さがある。神話の生きた世界という意味では、もののけ姫っぽい世界観。
終盤の時代分岐は強引でご都合主義っぽい印象も受けたけれど、やはりこの作品は矛盾点どうこうよりも情緒的なところが面白いのだと思った。中篇のつもりで書いていたら頁数が増えてしまったと云う作者の言葉も妙に納得できる。時間を遡ってドンパチやってる描写だけなら半分の頁数で終わりそうなものだけど、主人公が過去に送り込まれるまでの人間らしい感情を身に付けるまでの話や、冷酷で人類を救う事を至上命題とするパートナー生命体との軋轢などの後から肉付けされたと思しき部分が、物語に厚みを与えていた。
ということでKindleセール386円で購入して電子的に積んでいましたが、とても面白かったです。
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