書籍名だけ見るとAppleポエムで著名な某ITライターの人が書いた新作かと勘違いしそうになるが、そうではなく、著者の方はルネサスエレクトロニクスで設計畑を長く担当し、2023年現在はスマートフォンやゲーム機を分解開封してレポートを作成する会社を興して独立した人なんだそうな。そんな人が、大量の分解写真と共に、iPhone・iPad・MacBook・Apple Watch・AirPodsといった主要Apple製品の進化を解説する本である。つまり、Appleの発表会に招かれて礼賛ポエムを書いたんじゃなく、ガチで中身を覗いて技術解説した本という訳だ。
ハードウェアは門外漢なんだけど、いくつかApple製品を使ういちコンシューマーとしては面白く読める内容だった。とくにiPhone XからiPhone 12世代までの変遷では、最初はL字型バッテリーだったのが途中で変わっていたり、見た目が「ジョブズ時代のiPhone 4に先祖返りした」と言われたiPhone 12が実は基板レイアウトもiPhone 4とそっくりだったりした辺りはふむふむと頷きながら読んだ。チップだけでなく電源管理IC(PMIC)も他社から買ったものを使わなくなって自社設計に変わっていたのは本書で初めてちゃんと知った。
Apple WatchもSeries 8までの変遷がまとめられていて、初代からは猛烈な勢いで様々なセンサーが増えている事がわかる。もう、一昔前の近未来フィクションで登場していたガジェットそのものである。もちろん、そんな多機能はフィットネスガジェットを必要とする人はそう多くないし、Appleも承知しているからApple Watch SEとかiPhone SEとか色々出しているんだろうけど。
やっぱりスマートフォン(や、スマートウォッチやタブレット)のような製品は、莫大なコストをかけてコアとなる部品を自社設計できる企業が強いんだなと改めて思わされる。製造委託を一手に引き受けて実現しちゃうTSMCも凄まじい技術力である。OS含めてパワーマネジメントに優れているからiPhoneはでかいバッテリー載せなくていいんだよね。Android端末はでかくなる一方なのが何故かも良くわかるし、Googleも自社設計チップをPixelシリーズに採用し始めた理由も良くわかる気がする。本書では特筆して触れられていないけど、サムスンって凄く良いポジションに居る企業のように思う。Google Tensorも今のところはサムスン製チップのカスタム製品みたいだし。1990年代のソニーならAppleにも対抗でき得る事業ポートフォリオはあったんじゃないかと思いたいが、現在はエレキをかなり縮小してコングロマリット経営を志向しているからなかなか難しそうだ。やっぱりソニーのスマートフォン事業、あと数年で撤退しちゃうんじゃないかなぁ。自社イメージセンサーの見本市だと考えて事業継続してくれる社長が続いてくれればワンチャン残るんだろうか。
日本で暮らしているとiPhoneが高いと感じるのは日本円が対ドルで一方的に安くなっているからだし、中華製スマートフォンが安く感じるのも人民元が日本円と共に(日本円以上に)没落しているからなので、こんな世界一の通貨と頭脳の集積をもってして設計・製造される製品を使うよりも、汎用品でそれなりに必要十分な中華製スマートフォンを2年くらいで買い替えて使うのが正解かも知れない。あとはバッテリーの最大容量が減ってるのを許容できる・またはリフレッシュして入手できるなら、中古で何世代か前のiPhoneを買って使うのも賢い暮らしである。
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