ここは汚れなき理想郷のはずだった。1000年後の日本。伝説。消える子供たち。著者頂点をきわめる、3年半ぶり書き下ろし長編小説!
子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。いつわりの共同体が隠しているものとは――。何も知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる!
第29回日本SF大賞受賞
『黒い家』『天使の囀り』『クリムゾンの迷宮』で読者を恐怖のどん底に突き落とした貴志祐介の超長編。
「呪力」と呼ばれるサイコキネシスに目覚めた人類の、危ういバランスの上に成り立っている平和がガラガラと崩れていく様を壮絶に描写する。
SFとホラーを基軸に据えながら、超文明の滅びた謎解き、伝記的なモチーフが多用されながら詰め込まれ、主人公の少女時代を振り返る手記という体裁からは、ジュブナイル小説のような印象さえ受ける。
幾度となく「バケネズミ」と呼ばれる種の戦争が登場し、背丈が人間ほどもある獣が言葉を喋って戦をするのは冷静に考えると滑稽(壇ノ浦の戦いパロディまである!)な筈なのだけど、そこは作者の真骨頂と云うか、生き物の根源的な怖さに訴えかける容赦ない表現で滑稽さよりも恐怖が勝ってしまう。展開は強引なのだけど、しっかりと作り込まれた世界設定に引き込まれ、面白くて読み進めるのを止められない。
下巻の解説によれば、この作者は、元々は本書『新世界より』の原型となった作品『凍った嘴』でSF新人賞佳作を受賞しており、ホラーではなくSFで作家キャリアを始めていたらしい。これは初めて知った。
いつの間にか消えてしまった同級生というプロットからは『20世紀少年』を思い出すし、バケネズミの女王を中心としたコロニー形成は『HUNTER×HUNTER』を想起させる。こういうシビアな漫画作品が好きな人は相当ハマる本だと思う。おすすめ。
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