あまりこの手の実用書は読まないのだけど、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』、これは面白かったので珍しく書評をしてみます。
アップルという会社やスティーブ・ジョブズという人物に興味の無い人が読んでも楽しめます。ジョブズ伝記の表紙を見てジョブズの遺志が聞こえてこなくても、本書を読む資格は十分にあります。
著者の主張はとても明確にして簡潔で、各章の最後に「ディレクターズ・ノート」として、スティーブ・ジョブズのプレゼンで取り入れられているテクニックがまとまっています。極論してしまうと、ここだけ読んでしまえばハウツー本としては事足ります。
つまりテクニックだけに絞って解説するのなら、400ページも要らなくて、20ページもあれば終わってしまうような内容なのです。
残りの数百ページは何があるのかと云うと、それらのテクニックをスティーブ・ジョブズが基調講演で使った事例だったり、シスコといった著名な会社のCEOも似たテクニックを使っている、といった紹介です。そういう、ちょっとしたエピソードを楽しむ本です。
少し意外だった点としては、「今すぐPowerPointを窓から投げ捨ててKeynoteを使おう!」といった主張は、どこにも無かったことです。本書で扱うのは普遍的なテクニックだから、どんな道具にも応用できる、そう最初に断りが入ってます。
もちそんスティーブ・ジョブズに対比する伝説的な経営者としてビル・ゲイツも出て来て、「ジョブズに比べてゲイツのスライドでは文字数が多かった」という言及があるのですが、「これはゲイツが天才だから許されることなんだ。普通の人が同じことをやっちゃ駄目だ」と云う文脈での登場です。
マイクロソフト現CEOであるスティーブ・バルマーに至っては、スティーブ・ジョブズに比肩するプレゼンの達人として絶賛されています。意外ですよね。エンガジェットなんかのニュースソースだけ読んでると、あまりそういったイメージが無かったので「へぇ」と思いました。
もちろん端々にアップルの輝かしい功績を紹介する文章はありますし、IBMはコテンパンに失敗の歴史を叩かれていますが、総じてアップル信者度は低いと感じられました。もしスティーブ・ジョブズが死去した後に同じ内容の書籍が企画されていたら、もっと神を崇めるような内容になっていたかも知れません(本書の発売は2010年)。
「箇条書きはやめろ」っていう、それ取り入れたらオレが過去に作ったプレゼン資料全部死ぬわとしか言いようのないテクニックもあるのだけど、「印象付けたいフレーズは何度も使おう」とか「デモを取り入れよう」とか、今月発表するために作ってるスライドで早速実践してみようかなと思わせるテクニックも随所で紹介されており、自分のスライドを書き直したくさせる本でした。
読み物として面白かったです。飛び込み営業とかやる訳でもない普通の会社員が読んでも楽しめます。ジョブズの遺志が聞こえて来る人は、こっちじゃなくて彼の顔アップが表紙になっている伝記の方を買いましょう。
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