空中高くに出現した密室で溺れ死んだ実業家……アメリカ南部の孤島に屹立(きつりつ)する人工のピラミッドに起こる不可能犯罪の謎!
死者は、上体を奇妙な具合にそらせ、右手を前方に、左手を後方に伸ばし、今まさに、クロールで水を掻いているところのように、双方を微妙に彎曲させていた。死因は、なんと溺死だった。それも、三十数メートル眼下の海水を内臓いっぱいに飲まされ、絶命していたのである。
思わず承太郎が「砂漠のド真ん中のピラミッドの最上階で溺れ死んでいるぜ!」と叫んでしまいそうなほど奇妙な舞台設定の密室殺人の真相を、名探偵・御手洗潔が自信満々に模型を使ってズバッと解明してみせる爽快な長編推理小説。
しかも著者の「ベトナム戦争で卑劣な兵器を使ったアメリカ人はクソだぜ!」と言わんばかりの主張を探偵に代弁させているのが透けて見えて、とにかく謎解きシーンの、ハリウッドスター達の前で熱弁を振るう御手洗の姿はかなり痛快で面白い。その後の息を呑む急展開も目が離せないほど面白かった。
事件の舞台となったピラミッドのレプリカ、そのオリジナルを求めてエジプトへ渡った御手洗と助手の石岡、ハリウッドの大女優レオナのトリオによる、まるで冒険活劇のようなシーンも見どころたっぷりだし、とても楽しく読めた。
同じく御手洗の活躍する『斜め屋敷の犯罪』と並んで、壮大なスケールと苦しい説明が紙一重で交差する建築トリックエンターテインメントの傑作。
しかし長い! とてつもなく長い!
というか、作品前半を丸々使って、沈むタイタニック号の悲哀と、古代エジプトを舞台として哀しい少女の物語の2つのエピソードを読まされるのだけど、これがほぼ全てが作品本編とは何の関係も無い(若干の伏線はある)と云う、前代未聞の蛇足になっているところが惜しい。
上の2つのエピソードは、これだけ見てもかなり高品質で面白い物語なのだけど、余りにも本編の御手洗たちの遭遇する事件と関わりが無さ過ぎて、何のために読まされたのか本当によく分からなかった・・・。1粒で3度美味しいと言えば聞こえは良いけど、僕は、現代編ともいうべき作品の後半部分だけの提供で十分だと思った。
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