会社のSF読みな人から薦められ、何やら超大作シリーズがあるらしい事は知っていたものの、なかなか手に取っていなかった。
完結記念だかSFの賞を受賞した記念だかで、Kindleストアで1巻が無料になっていて、自分のKindleライブラリに追加してあって、とても面白いかつ最後が気になる終わり方をしていたため、まんまと全巻を買って読むことになってしまった。
SFは舞台装置であって、あくまでシリーズのテーマになるのは、感染症、差別と被差別、知性、生物同士の相互理解といった普遍的な概念を描いているように読み取った。
実は年末年始の休暇にかなり終盤まで読み進めていたのだけど、扱われる感染症の話に加えて、「追い詰められた国家の暴走」みたいなところがあまりに現実とリンクしていて、しばらく読むのを止めてしまっていた。シリーズの後半(6巻くらい?)からは、巻末に年表や用語集が掲載されるようになり、読むのを再開する際はこれが役立った。Kindle版でお馴染みの「合本版」だと、年表や用語集ってどうなってるんだろう?
以下は感想です。ネタバレには配慮します。
西暦2803年・人類の入植地「メニー・メニー・シープ」を舞台に、医師のセアキ・カドムが奇妙な感染症を診察することを契機に、怪物や地球外生命体と触れ合ったり、権力者への反体制運動に巻き込まれて行く話。
反体制運動がスカッと成ったところで大どんでん返しが訪れるのでポカーンとしてしまった。この上下巻はしばしば0円セール対象となっているので、気になった人はこれだけ読んでみても良いように思う。
現代(西暦2015年)を舞台に、感染症パンデミックと、感染症から回復したが他人には感染させてしまう人達のコミュニティ救世群(プラクティス)が形成される成り立ちを描く。
序盤はパニックものみたいな展開で、後半に至るほど人の抱える差別的感情を意識させられる。COVID-19の狂騒が続く2022年に読む価値のある物語と言える。基本的には他の巻と独立していて、これだけ読んでも話は完結している(が、細かいところは他と繋がっている)。
メニー・メニー・シープにも子孫の居る、進化の過程で呼吸を必要としなくなった人類である酸素いらず(アンチ・オックス)達が、西暦2300年代の人類が宇宙進出を果たした初期における警邏活動を描いている。宇宙海賊モノというんだろうか? 一番ライトノベルとか少年マンガっぽい痛快アクションとなっている。
酸素いらず(アンチ・オックス)が性的にかなり自由で、LGBT問わないパートナーが多いところのに、一方で地球から連綿と続く宗教にもめちゃくちゃ熱心な辺りが見どころだと思う。これも1冊で完結している(が、やはり他の巻との繋がりが巧みに示唆されている)。
シリーズの超重要人物である恋人たち(ラバーズ)と呼ばれる人型アンドロイドのラゴスを中心とするグループと、救世群(プラクティス)との関わりの始まりが語られる。
シリーズ全編を通してもかなり異色な仕上がりで、ひたすらセックスセックスセックスだという内容のため、ニコニコ動画の『ダンベル何キロ持てる?』MAD動画『お願いセックス』を思い出してしまった。
これも単体で独立した物語ではあるのだけど、他の巻を追っていないと厳しい気がする。
西暦2300年代の農家を舞台とした少女の成長を描く。ノルルスカインとミスチフという、シリーズの二大知的生命体の誕生経緯や、KWh(キーウィ)という単位の電力が通貨単位として取引されること、ロイズ非分極保険社団の傘下会社マツダ・ヒューマノイド・デバイシズ(MHD)などなど、いよいよスペースオペラとしての舞台装置が整って行く感じでわくわくする。ロイズやマツダといった、西暦2000年代にもある組織と縁ありそうか無さそうか絶妙に思わせる名前も良い。
「宇宙に進出した人類にとって、電力やカロリーってどうやって解決してるの?」という当たり前の疑問に答える、のほほんとした農家の話に見せて、かなりハードSF寄りな設定が出てきていると思う。
1人の少女がボーイスカウト・ガールスカウト集団と一緒にキャンプするガールミーツボーイな導入から、救世群(プラクティス)として感染症差別を受ける人々の共産主義・全体主義的で質素な生活と蜂起を描く。個人的には1番お気に入りの巻。ディストピアSFが好きな人も存分に楽しめるのではないだろうか。
分冊版でもPART3まであって、多分シリーズの中で最も長編なのがこの『VI 宿怨』ではないだろうか。「北朝鮮やロシアみたいな国家と上手くやって行かないといつかとんでもない出来事が起こりそうだ」と思いながら読んでいて、その後2022年ロシアのウクライナ侵攻が起きて本当に参ってしまった。
前巻『VI 宿怨』から直接の続きとなる、宇宙規模の冥王斑パンデミック後の世界が語られる。この辺から、話としては独立していなくて完全に続き物なため、単体で楽しむことは難しいように思われる。
『I メニー・メニー・シープ』への直接的な繋がりがいよいよ見えてくるのと同時に、スカウト所属の少年少女が奮闘するジュブナイル作品のようでもある。
『I メニー・メニー・シープ』で登場した怪物の咀嚼者(フェロシアン)が、いかにして人類の入植地「メニー・メニー・シープ」へ到達したか、彼ら彼女らの目的は何なのかが遂に伏線回収される巻。
ネタバレせずに感想を書くのは難しいため割愛。
前後の巻と完全に続き物となっている。この巻については、遺物探検のような不気味さと面白さもある。
某キャラクターが悪堕ちしたのか!? とやや焦った。何を書いてもネタバレしそうで何も書けねぇ……。
最終巻。超新星爆発からマイクロブラックホールから宇宙怪獣大戦争まで、とにかく全部詰め込んだ感じになっている。正直かなりとっ散らかってしまった印象もあり、作者あとがきで最終巻近くは書けなくなってた時期も長かったと明かされていて妙に納得はした。
全編を通して「知性とは?」みたいなものが考察されていて、相互ネットワークで集団知性を獲得する生命体や、ガスや群生植物みたいな生き物など、人間の想像力の外側に居る色んな知的生命が見れたのは良かった。ラゴスお前そんな女たらしで良いのかよ、みたいな思いもありつつ、とにかく風呂敷が畳まれてよかった。
SF大河ではあるのですが、少年マンガ的な快活キャラクターも居るし、群像劇としてもサクサク読めるシリーズです。
個別の感想に書いたとおり、例えば『II 救世群』だけ読んでも、現実の人類がパンデミックを経験した今はかなり考えさせられる内容だと思うし、『VI 宿怨』と前後するシリーズで描かれる人類の差別意識や相互不理解による不幸を発端として起きてしまう大規模戦争のくだりは、かなり読み応えがありました。
しかし余りにも長過ぎて、気軽に他人へ薦められないシリーズであるのも確か。
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