超能力者問題秘密対策委員会<チョーモンイン>に所属する神麻嗣子さんのシリーズもの。らしい(らしい、と言うのは、このシリーズは初めて読んだので)。
本書は、特定の条件下において、他人の視ている映像が自分の意識の中に入ってくるという「超能力」、その能力を通じて目撃してしまった殺人事件の謎を、神麻さんをはじめとするレギュラーキャラクタ達が解くといった構図のストーリーである。
主題となるテレパシーにも似た超能力は、いつでも能動的に発動できる訳ではなく、条件が揃わなければ映像が流れてこない。この制約、超能力の非万能性が、限られた情報の中から犯人を絞り込んでいく過程を面白くしている。「なぜそんな超能力が使えるのか」といった説明にはページを割かず、「あくまでこういった超能力が存在する前提で、謎解きを楽しみましょう」という姿勢は、西澤保彦の多くの作品に共通するものだ。
SF風設定を用いたミステリ小説として、最後の結末の意外性は満足の行くものだったが、作品全体を通して神麻さんの可愛さをアピールする描写が非常に「あざとい」印象を受けた。くどい。さらに、レギュラーキャラの1人である能解警部も、すごい優秀な美人でクールビューティーなお姉ちゃんらしいのだが、どうも西澤作品におけるこの手のキャラクタ(タックシリーズのタカチなど)は、余り魅力的でない。
この人の作品には、シリーズものとして先を見据えた物語展開よりも、使い捨てのキャラクタによる唸るようなSF制約トリックを期待してしまう。三角関係が、くどい。
世界一周中の豪華客船ヒミコ号。乗客の持ち込んだ、天才画家・関根朔太の自画像を盗み出すのが怪盗に課せられた今回の任務であった。許された時間は那古野から宮崎までの一日半だけ。なぜか小鳥遊練無たちも無賃乗船したまま航海は続いたが、突然の銃声の後、男性客の消失事件が発生。楽しい旅行は意外な方向へ。
『黒猫の三角』から始まる森博嗣の通称Vシリーズ6作目。数年前に途中まで読んだのに紛失してしまい、以来このシリーズを読むのを止めてしまっていたのだが、友人のユーキさんが古本屋で1冊発見して購入し贈ってくれたため、再読の機会に恵まれた。ありがとうございます。
本書は、多作な森博嗣作品の中でも屈指の完成度である。読後感としては非常に爽やかで、素敵なおじさまである怪盗に大変なものを盗まれてしまったクラリスのような、晴れやかな気分になる。シリーズものではあるが、数年ぶりに読んでも全く違和感なく、作中のキャラクタ達は活き活きと動き、悩み、愉快な掛け合いを演じてくれる。
豪華客船の中で人と絵画の消失事件が起きるものの、あくまでそれらは物語を彩る添え物でしかなく、本筋として楽しむべきは、大笛梨枝、香久山紫子といった恋する女性の描写にこそあると断言して良いだろう。しこちゃんかわいいよ、しこちゃん。
怪盗小説、そして恋愛小説として満点の出来栄え。ただしタイトルを除く。
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