読書感想文

篠田 節子

贋作師

自殺した大御所作家の遺作修復を依頼された主人公は、その作品が贋作であることに気付き、事件に巻き込まれる。

後半はホラーのような展開で、かなり怖い。美術界の裏側という、社会的なテーマも見え隠れする一冊。

★★★★ 講談社

聖域

関わった人々をおかしくしていってしまう作家が残した、書きかけの作品『聖域』の原稿に魅せられた主人公が、作品を完成させようと作家の足取りを追っていく。

人類の最大の謎とも言える、生とは、死とはといったことがテーマのかなりの大作。作中作『聖域』も非常に続きが気になる。

この人の本はコレが初めて読んだんだけど、いやぁ面白い。物凄い迫力のある文章で、思わず一気に読んでしまった。

★★★★★ 講談社

弥勒

ヒマラヤにある仏教文化の栄える国、パスキムで起こった政変を調べる為に潜入した新聞社員・永岡は、革命軍に捕まり壮絶な生活を強いられる。

何が正しくて、何が間違っているのか、この本は余りにも多くのものを我々読者に問い掛ける。凄惨な描写も多いけど、凄く面白いのでおすすめ。

革命軍の指導者の名前の元ネタは、チベットの二長老かな。

★★★★★ 講談社

ゴサインタン 神の座

山本周五郎賞受賞。ネパール人と結婚した結木輝和は、妻の託宣に従いあらゆる財産を失う。やがて失踪した妻を捜し、ネパールにある神の山、ゴサインタンに辿り着く。

魂とは、神とは何なのか。作中で明確な解答が示されるわけではないけれど、最後の場面で主人公の輝和は救われたのかもしれない。

★★★★☆ 文藝春秋

アクアリウム

地底湖で出会った不思議な生物の住処を守る為に、長谷川正人は環境保護の運動に参加する。

異生物との交流がメインに描かれていくのだけれども、結局、自然に優しいというのはどういうことなんだろうなぁ、と読後に思いました。

★★★★ 新潮社

斎藤家の核弾頭

近未来の東京を舞台に特A級市民(設定がややこしい)である、斎藤さん家の崩壊していく日常がユーモラスに書かれる。

感想としては、やっぱり「母は強し」の一言に尽きるなぁ。しかし何でも器用に書いちゃう人だね、ホント。

★★★★☆ 朝日新聞社

家鳴り

いつ自分に降りかかってもおかしくない悲劇、というのは想像するだけで怖い。そして、そんな話ばっかり入ってるこの短編集は、やっぱり読んでて怖い。

表題作『家鳴り』は人為的に起こった悲劇であるのに、そこに愛が在るだけに余計に遣り切れなさが残る。

★★★★ 新潮社

死神

福祉事務所に勤務する人々の抱える、様々な問題を描いた短編集。

ほぼ寝たきりで一人で暮らす老人や、落ちぶれてしまった作家など、普段目を背けていたい問題をストレートに書くあたり、らしさが出ていると思う。

★★★☆ 文藝春秋

ブルー・ハネムーン

超絶美女結婚詐欺師の姉小路久美子が男を次々と騙して金を巻き上げていく。騙し相手のデータ収集等をする、相棒の葛西修という男がめちゃめちゃ奥手で、いつかSF作家デビューを目指す根暗青年なのも妙に面白い。

後半は何故かハリウッド映画のような、アクション交じりのサスペンスになっていく。篠田節子作品の女主人公は、基本的に行動力あり過ぎ。このコンビのシリーズ物が出て欲しい。

★★★★ 光文社

夏の災厄

新型日本脳炎が、埼玉県の昭川市という場所で局地的に大流行するという、パニックホラー小説。

人間への感染源が分かったら、その生物を処分したりと、思わず現実の鶏インフルエンザなんかを想起させられてしまう。それでも感染の拡大は収まらず、地獄絵図と化していく壮絶な展開。

新型日本脳炎ウィルスの起源を求めて、とある地へ行くのだが、このあたりの話の進み方が、いかにも篠田節子小説といった感じ。最後まで怖いし、中央政府と地方自治体との関係なんかも考えさせられる作品だ。

★★★★☆ 文藝春秋

カノン

瑞穂は昔の恋人・康臣が死の直前まで弾いていたバイオリンの演奏が録音されたテープを入手する。とにかくテープをかけると不思議なことが多発する。何じゃそりゃ - !

瑞穂・康臣に入って三角関係を形成する正寛という奴が居るのだが、こいつが一番ナイスガイでまとも。それ以外、余り印象に残ってない・・・。

★★ 文藝春秋

女たちのジハード

第117回直木賞受賞。保険会社勤務の女性5人の、結婚を巡るまさに"聖戦"が描かれた短編集。美人で男を値踏みする女や、三十を過ぎて結婚に諦観しかけている女などなど、5人の誰の話でも、それぞれの思惑が見え隠れして面白い。

男性読者人気1位は、どんくさい紀子らしいが、みんな何も分かってないな!リサが一番だぞ!美人で料理上手で有能なのに、結局自分の気持ちを優先してとんでもない生活の待っている結婚をしてしまう(少々ネタバレ)のが最高。あの話で涙が出そうになったぞ!

そんな訳で、お気に入りの話はリサの『上昇気流』と、おせっかい中年女・康子の『二百五十個のトマトの夜』『三十四歳のせみしぐれ』の三つ。

★★★★★ 文藝春秋

インコは戻ってきたか

女性誌『サン・クレール』の編集者である響子は、東地中海のキプロス島のリゾート地取材の為、キプロスに詳しいカメラマン檜山と共に現地入りする。しかし2人は、北キプロスと南キプロスの紛争に巻き込まれてしまう。

民族紛争の解決の難しさについて色々と考えさせられる作品だ。檜山の「情の移った人間が味方だ。そいつを攻撃する奴は敵だ」という戦場カメラマンとしての台詞も、印象に残る。

★★★☆ 集英社

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