読書感想文

野沢 尚

破線のマリス

首都テレビの看板ニュース番組『ナイト・トゥ・テン』の人気コーナー『事件検証』の映像編集を担当する遠藤瑶子。彼女の元に、郵政省関係者からの内部告発テープが渡される。瑶子は、上司には無断でその映像を使った特集企画を編集する。

本書の解説に「マリス」とは報道の送り手側の意図的な作為または悪意のこと、「破線」とはテレビ画面を構成している五百二十五本の走査線のことである。したがって、『破線のマリス』は送り手側の情報操作、虚位報道、やらせ、でっち上げといった意味になる。とある通り、まさしくマスコミのやらせ、それに伴う報道被害といったものを扱った作品である。やり手の映像編集者である主人公の瑶子に「映像百年の歴史はヤラセの歴史」と言わせてしまうところに本書の凄味がある。

ミイラ取りがミイラになっていく瑶子も、徹底的に嫌な人間であり、時には狂気さえ感じさせるが、一方で母親としての弱さを度々見せている。そんな瑶子がどん底に突き落とされていく過程にも終始圧倒的なリアリティを感じさせている。おすすめ。

★★★★★ 講談社

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